≪ことばのこと≫#5 「漢字、ひと文字の違いで…」

仕事柄、言葉には敏感です。デスク回りには数冊の辞書があるのですが、今年に入って加わったのが、「広辞苑」第7版。今年1月に発売されました。10年ぶりに改訂された今回、新たに1万語が追加され、トータルで25万項目の言葉が収録されているのだそうです。

アナウンサーとして、それらの言葉を使いこなしているのかと問われると、まだまだです。言葉の読み方や使い方を確認するために毎日のように辞書を引きます。

若い頃は言葉で大失敗もしました。夕方のニュースキャスターを担当していた当時、「他人事」をうっかり「タニンゴト」と読んでしまい、当時の上司から「ニュースキャスターを務める君のような中堅にあるまじきミス」と、こってり絞られました。

広辞苑で「他人事」を引くと、『近年、俗に「他人事」の表記に引かれて「たにんごと」ともいう』とありますが、最新版でも俗語扱いです。最近は、テレビや新聞では「ひと事」という表記をするようになりつつありますが…

こんな私ですが、キャリアを重ねると、自分のことは棚に上げて若いアナウンサーやスタッフの言葉に「おやおや…」と思うことが増えました。

ある日のこと…。日差しの強い屋外での収録で、インタビューの相手を待つ15分ほどの間、カメラから5~6メートル程離れた日陰にいるとスタッフに伝えて最終準備。そこに若いスタッフが、あと数分で準備が整うことを私に伝えるために戻ってきました。「川崎さ~ん、どこですか?」と。「ここだよ」と告げたのですが、間髪を容れず一言。「あっ!見損ないました」…と。

この一言で、周囲には笑いが起こり、インタビューも和やかに。若いスタッフは「(一瞬)見失いました」と言いたかったのでしょうが、あれから1年近くが過ぎた今でも、ふと思います。もしかしたら、あれは彼の本音ではなかったのかと…

アナウンサーは、日本語と格闘する日々なのです。